受賞者のコメントはこちら
最優秀作品 | 賞金30万円 | 東京FILMハーモニー | 蜜柑 | ||
優秀作品 | 賞金10万円 | UTWORKS | 人間失格 | ||
佳作 | 賞金5万円 | Acid Sugar Cublic | 黒死館殺人事件 |
■第3回「カットノベル」アワード選評
残念ながら、一言でいって、低調だった。前二回に比べてレベルが落ちている。
そういう観点から、僕は、次の3作を選んだ。
優秀賞は、新立翔『木犀の香』(薄田泣菫) である。作者は第1回の本賞では、『滝のある村』(牧野信一)で優秀賞、第2回では『高野聖』(泉鏡花)で最終候補に残ったものの惜しくも受賞には至らなかっが、カットノベルのひとつの才能として注目に値すると思っている。
佳作に選んだのは、原木雄地/ 荒木桜子『蜃気楼』(芥川龍之介) である。一瞬、ACID SUGER CUBLIC 『肌色の月』(久生十蘭) もふと思いついたのだが、同じ作者の作品を2本入れることはいけないので、原木雄地/ 荒木桜子作品にした。ストーリーがなくて不安だけがあるような原作のイメージを的確に掬いあげているからである。良くいえば凝縮された、悪くいえば省エネ的な方法が成功を収めているといえるかもしれない。 以上が、僕が選んだベスト3だが、第3回から選考委員に大根仁監督が加わったので、票が割れる心配もあり、ベスト3ではなくベスト6まで選んでみた。
1 ・ACID SUGER CUBLIC 『黒死館』(小栗虫太郎) 結果的に、大根委員と事務局側の得点の多さから、最優秀賞は、東京FILMハーモニー『蜜柑』(芥川龍之介) で、優秀賞はUTWORKS 『人間失格』(太宰治) となった。どちらも悪くはないと思うが(授賞に異論はないが)、前者はストーリーを誤読する(少女が死んでしまったような錯覚を与える)点が、後者はナレーションが聞きづらく、流れるコピーも読みにくいのが気になった。とくに後者は、多くの読者が読んでいる名作としてはやや独創性が足りない気がした。名作をとりあげるときは、新たな視点、新たな切り口を見せてくれないと名作を読んでいる読者に軽く見られる。とくに太宰ファンは多数存在するから、要注意である。 (選考委員/文芸評論家・池上冬樹) |
池上冬樹 プロフィール
文芸評論家。1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。 「週刊文春」「小説すばる」ほか各紙誌で活躍中。 2004年から三年間朝日新聞の書評委員をつとめる。 著書に『ヒーローたちの荒野』、訳書にリチャード・スターク『悪党パーカー/怒りの追跡』、 編著に『ミステリ・ベスト201日本篇』、 共著に『ミステリ・ベスト201』『よりぬき読書相談室』(本の雑誌編集部編)ほか多数。 日経小説大賞ほか文学賞の予選委員・下読みを数多くこなしている。
|
・最優秀賞「蜜柑」芥川龍之介:東京filmハーモニー
「映像、音楽、グラフィック、役者、編集・・・つまりは演出がほぼ完璧でした。
断トツで上手かったと思います。どのように撮影&編集したかわからないショットもあり、感心しました。
何よりも揺るぎない世界観の構築が素晴らしいです。アイデアを具現化するその力に驚きました。
女の子の衣装や動きや表情も最高です!
そして未読の小説『蜜柑』を読んでみたくなりました。」
どの作品も力作ばかりで、とても面白く見させていただきました。と、同時にプロとして嫉妬を覚える才能のあるクリエイターばかりでばかりで焦りも感じました。選考はかなり悩みましたが、短い尺の作品はインパクトが大事だと思うので、直感と体感で心地良いものを選ばせていただきました。皆さんお疲れ様でした。今後の活躍を期待しています。
大根仁監督 プロフィール
大根仁(おおねひとし) 1968年東京都生まれ。演出家・映像ディレクター。 「まほろ駅前番外地」等のTVドラマ、マキシマムザホルモン「予襲復讐」等のMV、ロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」等の舞台演出を手掛ける傍ら、コラム執筆やイベント主催など幅広く活動。監督・脚本を手掛けた映画「モテキ」が2011年に公開。最新作「恋の渦」は全国で拡大公開中。 |