Season3選考発表

CUTNOVEL AWARD SEASON3 選考発表

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  最優秀作品 賞金30万円 東京FILMハーモニー 蜜柑 夢十夜
  優秀作品 賞金10万円 UTWORKS 人間失格 夢十夜
  佳作   賞金5万円 Acid Sugar Cublic 黒死館殺人事件 斜陽

 

第3回「カットノベル」アワード選評

 

 残念ながら、一言でいって、低調だった。前二回に比べてレベルが落ちている。
 何度もいうけれど、カットノベルとは、1分間の作品の宣伝ビデオである。その作品にまったく関心のない人間を書店の棚にむかわせ、本を買わせ、読ませて、感動させるような“煽動”がなければ駄目なのである。私はこの小説をこのように読みました、という解釈ビデオではない。ここが面白かった、という感想ビデオでもない。作品名を知らない、作家名も知らない人たちに、いかに作品の魅力を訴えるのかである。
 もちろん宣伝ビデオといっても、宣伝ばかりでは面白くない。多少の批評性、作者の解釈が入って、はじめてオリジナルが生まれる。自分なりの、物語の紹介の方法を考えなくてはいけない。この作品はここがいいのだ、ここが面白いのだ、ここが(過去の作品であっても)現代と繋がる点なのだ、読む必要があるのだと強く際立たせる何かがなくてはいけない。

 そういう観点から、僕は、次の3作を選んだ。
 まず、最優秀賞に選んだのが、ACID SUGER CUBLIC 『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎) である。ACID SUGER CUBLIC は毎回優れた映像を提出しているが、いつも作品の紹介というよりも、作品を借りて自分たちの映像の芸術性を見せる形になっていた。よくいえば、作品を読んだイメージを映像に仕立てましたという解釈ビデオのところがあった。それはそれでいいのたが、しかし、それではとても本を読みたいという気持ちにはならなかった。映像の作者名を知りたい気持ちにはなっても。
 ところが、今回の『黒死館殺人事件』は、カルト的な人気を誇る古典の面白さを端的なフレーズにして、作品と共振するような独特の暗い不安感を醸しだす映像で、よりいっそう読みたい気持ちをかきたてている。バランスのとれた優れていい仕上がりだと思う。

 優秀賞は、新立翔『木犀の香』(薄田泣菫) である。作者は第1回の本賞では、『滝のある村』(牧野信一)で優秀賞、第2回では『高野聖』(泉鏡花)で最終候補に残ったものの惜しくも受賞には至らなかっが、カットノベルのひとつの才能として注目に値すると思っている。
 今回は叙情派詩人としていわれた薄田の静謐さと端正さがよく出ていて、名前の知らない作家への興味を醸しだしている。独特の薄田世界を映像にしていると思うが、ただ、もうひとつ鋭さがなくて、食い足りない。それは『木犀の香』が短い随筆で、小品に準じて、おのずと作り上げる世界もこぢんまりとしてしまった感が強い。

 佳作に選んだのは、原木雄地/ 荒木桜子『蜃気楼』(芥川龍之介) である。一瞬、ACID SUGER CUBLIC 『肌色の月』(久生十蘭) もふと思いついたのだが、同じ作者の作品を2本入れることはいけないので、原木雄地/ 荒木桜子作品にした。ストーリーがなくて不安だけがあるような原作のイメージを的確に掬いあげているからである。良くいえば凝縮された、悪くいえば省エネ的な方法が成功を収めているといえるかもしれない。
 ただ、いささかイメージ・フィルム的な安易さもある。芥川作品の何に惹かれているのかをもっと明確に打ち出すべきだし、そうしないと見過ごされる危険性がある。だれもがみな、画面の前に正座して、あなたの作品をありがたく見てくれるとは限らないのである。書店の店頭におかれたテレビから流れたとき、どのくらいの人が目をとめてくれるのか、あるいは振り向いてくれるのかも考えるべきである。

 以上が、僕が選んだベスト3だが、第3回から選考委員に大根仁監督が加わったので、票が割れる心配もあり、ベスト3ではなくベスト6まで選んでみた。

1 ACID SUGER CUBLIC 『黒死館』(小栗虫太郎)
2
・新立翔『木犀の香』(薄田泣菫)
3 ACID SUGER CUBLIC 『肌色の月』(久生十蘭)
4 ・原木雄地/ 荒木桜子『蜃気楼』( 芥川龍之介)
5 ・東京FILMハーモニー『蜜柑』(芥川龍之介)
6 UTWORKS 『人間失格』(太宰治)

 結果的に、大根委員と事務局側の得点の多さから、最優秀賞は、東京FILMハーモニー『蜜柑』(芥川龍之介) で、優秀賞はUTWORKS 『人間失格』(太宰治) となった。どちらも悪くはないと思うが(授賞に異論はないが)、前者はストーリーを誤読する(少女が死んでしまったような錯覚を与える)点が、後者はナレーションが聞きづらく、流れるコピーも読みにくいのが気になった。とくに後者は、多くの読者が読んでいる名作としてはやや独創性が足りない気がした。名作をとりあげるときは、新たな視点、新たな切り口を見せてくれないと名作を読んでいる読者に軽く見られる。とくに太宰ファンは多数存在するから、要注意である。

(選考委員/文芸評論家・池上冬樹)

池上冬樹 プロフィール

池上冬樹 氏 文芸評論家。1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。
「週刊文春」「小説すばる」ほか各紙誌で活躍中。
2004年から三年間朝日新聞の書評委員をつとめる。
著書に『ヒーローたちの荒野』、訳書にリチャード・スターク『悪党パーカー/怒りの追跡』、
編著に『ミステリ・ベスト201日本篇』、
共著に『ミステリ・ベスト201』『よりぬき読書相談室』(本の雑誌編集部編)ほか多数。
日経小説大賞ほか文学賞の予選委員・下読みを数多くこなしている。

 

 

 

 

大根監督 選考結果寸評

・最優秀賞「蜜柑」芥川龍之介:東京filmハーモニー
「映像、音楽、グラフィック、役者、編集・・・つまりは演出がほぼ完璧でした。
断トツで上手かったと思います。どのように撮影&編集したかわからないショットもあり、感心しました。
何よりも揺るぎない世界観の構築が素晴らしいです。アイデアを具現化するその力に驚きました。
女の子の衣装や動きや表情も最高です!
そして未読の小説『蜜柑』を読んでみたくなりました。」

・優秀賞「人間失格」太宰治:Utworks
「太宰の世界を現代の風景で切り取るのはさほど新しいセンスとは思えませんが
それでもロケーションの選び方や撮影がしっかりしていて力を感じました。
何よりもPOPなのが良かったです。太宰ってPOPですもんね」
 
・佳作「鳴門秘帖」吉川英治:長槻亭坊
「今回多かったアニメ系の作品の中でも一番ローテクながら、しっかりとした世界観があって、ユーモアも漂っている。
変にカッコつけてないのも好感を持ちました。」

 

大根監督 総評

どの作品も力作ばかりで、とても面白く見させていただきました。と、同時にプロとして嫉妬を覚える才能のあるクリエイターばかりでばかりで焦りも感じました。選考はかなり悩みましたが、短い尺の作品はインパクトが大事だと思うので、直感と体感で心地良いものを選ばせていただきました。皆さんお疲れ様でした。今後の活躍を期待しています。

 

大根仁監督 プロフィール

大根仁(おおねひとし)
1968年東京都生まれ。演出家・映像ディレクター。
「まほろ駅前番外地」等のTVドラマ、マキシマムザホルモン「予襲復讐」等のMV、ロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」等の舞台演出を手掛ける傍ら、コラム執筆やイベント主催など幅広く活動。監督・脚本を手掛けた映画「モテキ」が2011年に公開。最新作「恋の渦」は全国で拡大公開中。

 

 

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