最優秀作品 | 賞金30万円 | 大同大学映像研究室 | 文字禍 | |
優秀作品 | 賞金10万円 | 新立翔 | 放送された遺言 |
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佳作 | 賞金5万円 | 唐井基行 | 人間椅子 |
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■カットノベル・シーズン4の選評
カットノベル・シーズン4には、粒揃いの作品が並んだ。 いきなりだが、候補に残った20本のなかから、僕が選んだベスト8を発表する。
1、中島敦, 文字禍, 大同大学映像研究室 2、海野十三, 放送された 遺言, 新立翔 3、江戸川乱歩, 人間椅子, 唐井基行 4、甲賀三郎, 琥珀のパイプ, Acid Sugar Cublic 5、本五郎, 地図にない街, Acid Sugar Cublic 6、村山槐多, 悪魔の舌, 柴田竜之介 7、小川未明, 海の少年, Acid Sugar Cublic 8、太宰治 女生徒 アトリエMora
1は、文字の生成を映像で巧みに見せて、作品がもつ謎の度合いを高めている。軽快でありながら緊密で、1分まるまる立ち尽くして見てしまい、そのあと本屋に駆けつけたくなる。美しき扇動の映像である。 2は、実写がもつ安っぽさがなく、素人俳優を上手に使い、なおかつ映像にも凝り、音楽も効果的で、コピーにも心をくだいている。相変わらず高い完成度を誇る。 3は、狂った者の心情を暗黒舞踏の(ような)役者に演じさせて効果をあげている。とくに終盤の畳みかける映像ラッシュがいい。 4と5と7は、安定感抜群のAcid Sugar Cublic の作品である。Acid Sugar Cublic は昨年までいささかアートフィルム的な凝った映像で、作品の勘どころをおさえて観客の読書意欲に訴えることよりも、自分たちの映像を見てくれ! という旗を高く掲げていた。シーズン4では、その旗を少し低くして、作家と作品によりそっている。作品がもつ歴史的価値を素直に訴えるコピーと、いい意味で揺れている映像が気持ちよく、どれどれ読んでみるかという気持ちにさせることは確かである。でも、逆に、矛盾した言い方になるが、もっとアート的でもいいという思いもある。それはAcid Sugar Cublic の芸術性に未練があるからでもある。 こういうことをいうと、選考委員としてぶれているではないかと思われるかもしれないが、そうではない。1分間という枠の中で何を伝えるのか、何を表現して、読書意欲を扇動するかなのである。残念ながら、シーズン4でも賞を与えることはできなかったが、Acid Sugar Cublic は1分間ではない3分や4分のとき、誰よりも力を発揮する気がする。アート性は数分間のときに発揮すればいい。アートフィルム的な長所が似合う純文学の作品やクライアントは少なからずいるからで、焦らないでほしい。引き出しがたくさんあることは作家(アーティスト)にとって大いなるプラスであるからだ。 6は、ややどぎつい作りをしているが、それが逆に見るものをひきつけるし、8は、絵がやや幼い部分もあるが、太宰作品の雰囲気をよく伝えている。 今回の審査では、事務局(仙台と東京の二つがある)のベスト3も参考にしたけれど、最終的に僕のベスト3に落ち着き、1を最優秀作品、2を優秀作、3を佳作とした。 なお、僕が第8位にしたアトリエMoraの作品は、仙台と東京のスタッフにとても好評で、各ベスト3に入っていたことをお伝えしておく。
さて、すでにご存じのように、カットノベルの才能が、文藝春秋のホームページでデビューした。馳星周『復活祭』の宣伝ビデオが流れているけれど、これはカットノベルが製作をうけおい、新立翔氏が作り上げたものである。まるで映画の予告編のような完成度で、よくもまあ原作の雰囲気をもつ俳優たち(素人俳優)を集めたものである。編集者たちにもとても好評だ。これを契機にカットノベルの“新作”が出版社のホームページで続々流れるようにしたいものだ。 余談になるけれど、僕が世話役をつとめる山形の「小説家(ライター)になろう講座」から6人の作家が生まれている。「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してベストセラー作家になった深町秋生、同じくこのミス大賞受賞の柚月裕子(『検事の本懐』で大藪春彦賞受賞)、小説現代長編新人賞受賞の吉村龍一、新潮社から書き下ろしデビューした壇上志保(夫との共同筆名「紺野仲右ヱ門」で第六回日経小説大賞受賞)、人気怪談作家になった黒木あるじ、徳間から書き下ろしでデビューした織田啓一郎の6人である。山形の小さな教室から、これほど多くの優れた作家が生まれるとは正直思わなかったが、才能は不思議と集まるのも事実である。 カットノベルの選考をしていると、明らかに才能が集まりつつあるという実感を抱く。本の宣伝ビデオという分野のパイオニアになるべく頑張っていきたいし、多くのクリエーターたちが集まることを期待したいものだ。
選考委員・池上冬樹
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池上冬樹 プロフィール
文芸評論家。1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。 「週刊文春」「朝日新聞」「小説すばる」ほか各紙誌で活躍中。 2004年から三年間朝日新聞の書評委員をつとめる。 著書に『ヒーローたちの荒野』、訳書にリチャード・スターク『悪党パーカー/怒りの追跡』、 編著に『ミステリ・ベスト201日本篇』、 共著に『ミステリ・ベスト201』『よりぬき読書相談室』(本の雑誌編集部編)ほか多数。 日経小説大賞ほか文学賞の予選委員・下読みを数多くこなしている。
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